熱シミュレーションで使用する熱および消費電力の目標値の入手

ザイリンクス デバイス向けヒートシンクおよび熱ソリューションの設計 (XAPP1377)

Document ID
XAPP1377
Release Date
2022-06-06
Revision
1.0 日本語

熱シミュレーションを実行する前に、デバイスの消費電力と目標温度を理解しておく必要があります。熱の目標については、デバイスの最小および最大動作温度を最初に確認しておくことが推奨されます。これは、ザイリンクス製品セレクション ガイドまたはデータシートに記載されています。ほとんどのデバイスは、大きく 4 つに分けられます。

表 1. ザイリンクス デバイスの動作温度
注文コード 温度グレード 動作範囲
C コマーシャル 0 ~ 85°C
E 拡張 0 ~ 100°C 1
I インダストリアル -40 ~ 100°C 1
M 防衛 -55 ~ 125°C
Q Q グレード -40 ~ 125°C
  1. デバイスによっては 110°C までの逸脱温度に対応します。

逸脱温度での動作が可能なデバイスでは、短時間だけジャンクション温度を通常より高い温度にできる場合があります。この逸脱温度の機能を使用するには、ミッション プロファイルを生成し、デザインに対して評価します。ミッション プロファイルの生成と逸脱温度の使用についての詳細は、 『逸脱温度を利用した熱ソリューションの拡張』 (WP517) を参照してください。

HBM メモリを使用したデバイスでは、HBM 動作の目標温度を設定する手順も必要です。HBM メモリの連続動作時の最大動作温度は 95°C です。スピード グレード –2 LE の Virtex® UltraScale+™ および Versal® デバイスでは、限られた時間だけ最大 105°C での逸脱温度動作が可能です。高い動作温度はリフレッシュ レートに影響し、その結果、動作帯域幅にも影響を与える可能性があるため、HBM メモリの目標温度を設定する際は、このことを考慮する必要があります。

シミュレーションの目標温度をどのように設定するかは、デザインの目標により異なります。通常は、デバイスの最大動作温度 (またはデバイスとデザインによってサポートされている場合は計算で求めた逸脱温度) に目標温度を設定します。ただし、目標温度をこれよりも低くすることが望ましいことがあります。たとえば、動作電力を最小にする場合、ジャンクション温度をさらに下げると、デバイスの消費電力が小さくなります。もう 1 つの例として、携帯型機器の場合があります。ユーザーのやけど防止のため、またはバッテリやその他コンポーネントの温度を妥当な上限値以下に維持するために、動作温度を下げることが必要になる場合があります。いずれの場合も、熱シミュレーションを実行する前にまずアプリケーションの目標ジャンクション温度を決定します。

多くの場合、ザイリンクス デバイスの消費電力は用途によって大きく変化するため、熱解析およびレギュレータの選択時に動作電力を把握するためのツールとして、ザイリンクス Xilinx® Power Estimator (XPE) を提供しています。デバイスがユーザーの想定する動作となるようにパラメーターを XPE に入力すると、熱シミュレーションの消費電力が計算されます。このツールは、ザイリンクス ウェブサイトの 電力効率 のページから入手できます。Kria SOM ユーザーの場合は、Power Design Manager (PDM) ツールを使用して消費電力を求め、予測される消費電力を SOM 熱モデルに適用します。このツールは、ザイリンクス ウェブサイトの Kria K26 システム オン モジュール (SOM) のページから入手できます。ツールに必要な項目を入力すると、シミュレーションに適用する消費電力がツールの Total On-Chip Power に示されます。

図 1. XPE の [Total On-Chip Power] の結果 (例)

正確な見積もりを得るには、ジャンクション温度をデバイスの決定済み熱目標値に強制的に設定します。これは、EnvironmentSummary ページで設定します。

図 2. XPE でジャンクション温度を逸脱温度 110°C に変更して消費電力を見積もる場合の例

HBM メモリを使用するデバイスでは、HBM の目標温度と消費電力サマリは、次に示す Summary ページのサマリ テーブルに示されます。シミュレーション モデルには、FPGA 用と HBM スタック用の 2 つの消費電力の値を入力します。いずれの値も、XPE のサマリ テーブルで確認できます。複数のダイまたは複数の HBM スタックを含むデバイスの場合も、すべてのダイまたはスタックの合計電力で構成されるモデルには、それぞれ 1 つの電力値のみを入力します。

図 3. XPE で見積もった HBM の消費電力と熱の情報 (例)